心血管
心臓と肺
胸の中心にある心臓はからだ中に血液を循環させ、生きている限り拍動し続ける一番重要な臓器です。そしてそのすぐ隣の左右に肺という臓器があり、呼吸をするときに毛細血管を介して二酸化炭素を排出し、酸素を取り込んで体の血液を新鮮に保ちます。肺と心臓は肺動脈、肺静脈という血管でつながっています。生きていく上でこれらの臓器は大変重要で、何らかの障害が起こると命にかかわることも珍しくありません。
全身性エリテマトーデスと心血管合併症
全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんでは様々な心血管系の合併症を伴うことが知られています。ある報告では、約50%の患者さんに何らかの心血管合併症があるとされています。代表的な合併症としては、心外膜炎、心筋炎、Libman-Sacks心内膜炎、肺動脈性肺高血圧症があります。動脈硬化によっておこる病気もありますが、そちらについては動脈硬化の章(現時点では執筆中です)をごらんください。それぞれ、簡単に説明します。
心外膜炎
自己免疫異常による心外膜(心臓を包みこみ、臓器を外側から保護する膜)の炎症と考えられています。SLEの患者さんの約25%に合併するとされています。特に症状がない方もいますが、胸部圧迫感や痛みの原因となる場合があります。痛みは体位(姿勢)や呼吸によって変わることが特徴的です。心エコーやCTなどの画像検査では、心臓をおおっている袋(心外膜を含む心嚢)の中に液体が貯留した状態になっています。ステロイド治療が有効ですが、心嚢の中の液体が大量に貯留している場合は、必要に応じて心嚢に針をさして直接水を抜くこともあります(心嚢穿刺)。
心筋炎
SLE患者さんの約10%に見られます。心臓を形成する筋肉に炎症がおき、その部分の筋肉が破壊されてしまうことで心臓の機能の低下や不整脈がおこります。症状が少ない患者さんから急に心機能が低下してしまう患者さんまで、症状や重症度は様々です。心機能低下するなど重篤な場合は高用量ステロイドや免疫抑制薬の併用、大量免疫グロブリン療法、集中治療室で循環補助の機器や薬を用いる治療などが必要となります。診断を確定するには、心臓カテーテル検査による心筋の生検(心筋組織の一部を採取し、顕微鏡で評価する)が有効ですが、大掛かりな検査になってしまうため、難しいこともあります。
Libman-Sacks(リブマン・サックス)心内膜炎
異常な自己免疫反応によって疣贅(いぼ)が心臓の弁(僧帽弁など)に形成され、ひどい場合は弁の破壊による弁膜症や心不全を伴うことがあります。頻度はあまり高くありませんが、ご病気の経過が長い方や、疾患活動性(病気の勢い)が強い方で注意が必要です。治療としては、免疫抑制療法でSLEの疾患活動性を低下させることが大事になります。
肺高血圧症
血管に対する自己免疫反応により肺血管の炎症が持続し、肺の血管抵抗(硬さ)が上昇し、肺動脈の圧力が高くなってしまう状態です。そうなると心臓の負担が増えてしまい、次第に心不全、さらには突然死を招いてしまうこともある重症な病態です。頻度は高くありませんが、一度出現すると進行性であるため、きちんとした検査と治療が必要となります。スクリーニング検査として心エコーを行い、心エコーで肺高血圧症が疑われる場合には、正確に肺動脈の圧を測定するために心臓カテーテル検査という精密検査を受ける必要があります。治療には血管拡張薬(プロスタサイクリン、ホスホジエステラーゼ5阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬)の他、SLE自体の疾患活動性を抑えるためステロイドや免疫抑制薬での治療が検討されます。